2021年9月7日に開催された小田原箱根商工会議所主催の「気候変動オンラインセミナー」で、風の谷あしがらプロジェクトの農業チーム、志村屋米穀店の志村成則さんと、あきさわ園の秋澤史隆さんが、「海付け竹垣プロジェクト」について紹介されました。
 その模様を風の谷あしがら事務局がレポートします。

竹を海に沈める?

 「海付け竹垣プロジェクト」では、2020年11月に小田原市沼代にある「あきさわ園」の山に生えている竹を伐採して、早川漁港近くの海に3週間沈めました。
 海水に漬けることで、竹が素材としてより強くしなやかになり、防腐防虫効果も期待できます。
 その竹を資源として活用しょうというのが、このプロジェクトです。

きっかけは、昔の知恵と技

 かつて、目の前の相模湾で行われていた定置網漁では、ワラを編んだ網と竹で作られたウキが使われ、竹のウキは、ウキとして使われなくなると、町の中の竹垣として再利用されていたそうです。
 このことを知った志村さんは、子どものころ、町中の竹垣にフジツボがついていたのが不思議だったことを思い出し、その謎が解けたそうです。
 そして、使われていない地元資源の有効活用につながる取り組みをぜひやってみたいと、竹林を所有するあきさわ園の秋澤さんと、国府津の「BLEND PARK」を運営しイベント企画などを手掛け、建築関係の仕事を本業とする杉山大輔さんとのコラボで、このプロジェクトが立ち上がりました。

あきさわ園の竹林

 あきさわ園は、小田原市の東端に近い沼代地区でみかんや様々な果物を栽培する農園です。
 園主の秋澤さんは、1000年前から先祖が暮らしてきた土地で、その恵みをこの先の未来にもつないでいきたいと、「ほしい未来は自分で創る」をモットーに、地域内外の子どもから学生、大人まで、みんなで力を合わせて楽しく活動することを大切にしています。
 竹林整備やその活用にも取り組んでいて、園内に数年前に稼働した加工場は、竹を骨組みに使った伝統構法で、大工さんや地域の方たちと一緒に手作りしたそうです。
 地域には、担い手の問題などから、みかん園が竹林に変わってしまうところも増えているそうで、資源の新たな活用の機会につながり、さらに人が集うきっかけにもなると、今回の取り組みに参加することになりました。

作業当日

 知り合いのつながりや、SNSでの声掛けなどを通じ、総勢40人があきさわ園の竹林に集まりました。
 チェーンソーで竹を切る人、枝を落とす人、竹や葉を運ぶ人、その葉っぱで子どもに巨大バッタを作って楽しませてくれる人・・・大人も子どもも、そこにいるみんなが自分にできることがあるのがいいところです。

全員で山の下に竹を運ぶ「竹リレー」まで終えた後は、志村さんのお米をみんなでいただくお昼ご飯。みんなの笑顔がつながる楽しい作業となりました。


 そのあと、伐採した竹を早川漁港近くに運び、海に沈めて、この日の作業は終了となりました。

海付け竹や未利用資源の可能性

 多くの方の力でできた「海付け竹」ですが、当初使うことにしていた建築工事の予定が変わってしまったため、海から引き揚げた後、今もまだ使われずに倉庫で大切に保管しています。せっかくの貴重な素材ですので、竹の可能性と面白さを存分に感じていただけるものを作りたいと考えているそうですので、ぜひ楽しみにしていてください。

 竹は、確かに手軽なプラスチック製品などに比べたら手間もコストもかかるかもしれません。ですが、作る過程では多くの人がかかわることで人の輪ができ、素材としても温かみがあり、自然に還る環境にやさしい素材で、何よりも、地域にたくさん眠っている資源です。

 そして、今回は竹でしたが、山も海も近く自然環境が豊かな小田原箱根地域には、竹だけでなくワラや木材など様々な未利用資源があります。
 その利用を増やすことができれば、エネルギー問題や環境問題などSDGsの取り組みになることはもちろん、地域の山や海の環境維持につながり、何よりこの地域ならではの魅力や良さを生かすことにもつながると思います。
 今回のセミナーを通じ、こうした資源について関心を持ち、使い方や使い道を一緒に考えて行動してくだる方が増えてくださるといいなと強く感じました。

志村さん・秋澤さんからのコメント

 ライフスタイルの変化により、里山資源は農家だけでは使い切れなくなってしまっています。

 約60年前までの生活は、ニワトリや豚、牛を飼い、薪を使い、藁と竹と木でできた製品と知恵と工夫で成り立っていました。
 そうして作られるものは、日本伝統構法の建屋は100年以上、海漬け竹垣は50〜100年と、長い期間大切に使われ、自然とともに人々の生活に寄り添ってきました。

 高度経済成長以降、大量生産・大量消費のファストファッションと同じように、生活消費材もプラスチック製品に代わり使い捨てが多くなると共に、里山環境は荒れてきていますが、今回の取り組みで改めて、人とのつながりや、素材の活かし方次第で、里山の潜在的な特性がより活かされる使い方がある事を知りました。

 一つ一つのモノの“いのちの生かし方と使い方=「命のライフサイクル」を、私たちのライフスタイルとともに考える時代になりつつあると感じています。
 自然とともに持続可能なライフスタイル経済を、みなさんと一緒に考えていけたらなと思っています。

 また、海洋プラスチックの問題についても、竹を海漬けにした際もゴミが漂っていて、身近な問題だと改めて感じました。 “ゴーストギア(持ち手のいない釣具たち、破れた漁網等)”で、“ゴーストフィッシング”(漂う釣具、漁具に捕まる)される魚たちは、本当に可哀想です。

 一次産業は手間暇が掛かりますが、それが自然の営みだとも感じます。
 コスパ重視な世の中ではありますが、子どもたちに引き継ぐ未来と、その持続可能性は、お金で買えない価値であると思います。

 適正な価格でライフスタイルが回る仕組み、価値観の変革が求められているものと思います。
 資本主義の現代において、私達の日々の消費は、未来への投資でしかありません。
 一つ一つの行動は、意味ある未来につながっている♫
 2、3、4、5世代未来のみんなが、幸せに暮らせる行動を少しずつでもしていきたいですね♫

【事務局より】
 あきさわ園では、里山再生のための様々な活動を継続的に行っています。
 どなたでも気楽に参加いただけますので、まずは一度足を運び、一緒に楽しく作業して、里山の可能性を大いに感じてみませんか。詳細はあきさわ園のfacebookページからご確認ください。

(文-風の谷あしがら事務局(渡辺))

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