2021年9月19日、小田原市南町にある小田原城主 大久保家の菩提寺「大久寺」で、風の谷あしがらプロジェクト経済チーム主催の「シュタットベルケ」についての勉強会を行いました。
 風の谷あしがらでは、地域のエネルギーについて多くの方と一緒に考えるシンポジウムを今秋に開催することを検討しています。今回はそのプレ講座として、プロジェクトメンバーで学び合いの機会を持ちました。
 その模様を風の谷あしがら事務局がレポートします。

今回の勉強会では
・「シュタットベルケ」とは?
・「地域のためになる電力供給」に関する取り組みについて
・電気自動車によるカーシェアを活用した「地域を支える交通システム」について
といった内容についてのレクチャーと、参加したメンバーとの意見交換とを行いました。

「シュタットベルケ」とは

 はじめに、風の谷あしがらプロジェクトメンバーであり慶應義塾大学経済学部教授の井手英策さんが、シュタットベルケに関する概要説明を行いました。
 シュタットベルケとは、電力やガス、上下水道、公共交通など地域に共通のニーズを、自治体が出資した会社が事業として取り組む仕組みで、ドイツで先行して進んでいる取り組みです。対象とする事業の範囲や自治体が出資する割合などは、地域や会社によってさまざまですが、ポイントは「地域の事業で出た利益を地域に還元する仕組み」であることです。例えば、電力事業の収益を、公共交通やレジャー施設、図書館や文化施設などのサービス提供に充てることで、地域の生活や文化の質の向上、地域の魅力の増大につながっています。そのため、電気を使う住民の側も、そうしたサービスを大切にする意識を持っており、なくなったら困るからと、シュタットベルケの電気を主体的積極的に選択することにつながるそうです。

 

 そして驚くべきことには、戦前の日本でもシュタットベルケと似たようなことが行われていたそうです。電気は現在のインターネット回線のように自由に取り引きされていて、自治体が行う電気事業では税収よりも多い程の収益が財政に繰り入れられ、貴重な財源の一部となっていました。
 その後、電力を国家が管理する戦時体制を経て、東京電力、中部電力など地域ごとの事業者による独占供給体制に移行しましたが、2016年に電力の小売りが自由化されたことから、電力会社の取り組みなどを参考にして利用者が電気を購入する会社を選択する時代が、再びやってきました。
 自治体が出資する会社なども参入し、地域の課題解決に取り組む「日本版シュタットベルケ」といわれる取り組みも増えてきています。

地域のためになる電力~湘南電力の挑戦

 湘南地域でも、地域の再生可能エネルギーにより発電し、配電する取り組みが、地域の企業の出資によって10年ほど前から始まっています。
 その中で、利用者への配電を担う湘南電力の取り組みについて、湘南電力の代表取締役社長で、風の谷あしがらプロジェクト経済チームのメンバー、原正樹さんから紹介がありました。

 湘南電力では、神奈川県内で作られたエネルギーを県内の利用家庭に販売する「湘南のでんき」というサービスを提供しています。
 このサービスでは、「地域応援メニュー」を選択できることがポイントです。これは、電気の使用量の1%が、地域活性化の取り組みや地域の環境・防災活動、湘南ベルマーレやNPO、市民活動団体の活動への支援など、選択したプログラムにあてられる仕組みです。
 支払う側から考えると、毎月5,000円の電気使用量を支払うとしたら、そのうち50円を毎月地域のために寄付できることになります。地域全体では、仮に1万人が利用したら年間600万円が、地域の暮らしが豊かになるための様々なプログラムに使われることになります。
 地域の電気を使い、その一部を地域のどんなことに使うのか、みんなで話し合って、選択できることは、まさに民主主義の仕組みそのものだという大きな気付きがありました。

電気自動車を利用したカーシェア「地域を支える交通システム」

 小田原箱根地域で電気自動車のカーシェア「eemo」を展開する株式会社REXVEの渡部社長が、取り組みについて紹介してくださいました。

 「eemo」は、地域で作られた電力で充電した電気自動車を、環境にやさしい交通手段として住民や観光客に気軽に使ってもらう仕組みです。
 太陽光などを利用した再生可能エネルギーは、発電できるのが天気の良い日中に限られるため、発電した電気を蓄電池に充電しておいて、必要な時に使えるようにする仕組みと組み合わせることで、より効果的に使うことができます。そのため、地域内のたくさんの電気自動車を蓄電池として活用できたら、地域に大きな発電所があるのと同じこととして大きな効果が得られます。そしてそれは、災害時には動く蓄電池として地域の暮らしを支えることにも役立ちます。
 渡部さんたちは、太陽光で発電した電気を利用した小田原城のライトアップや、ワーケーションを進める小田原市憩いの森など、様々な業種と連携することで再生可能エネルギーの利用普及を進めているとのことでした。

あしがら地域のエネルギーをみんなで考えたい

 今回の勉強会では、毎日の生活に欠かせないにもかかわらず、電気についてあまりに無関心だったことに気づかされました。そうです。気づくこと、どの会社から電気を購入するかを考えることによって、再生可能エネルギーの拡大に協力したり、地域貢献に参加したりすることができるのです。
 SDGs目標の一つ「つくる責任つかう責任」は電力にも当てはまるんだ、子や孫の世代まで使うインフラ整備に直接かかわることなんだ、だから自分のこととして考え、選択してほしい、原さんがこう言われたことは、本当にその通り。ぜひ地域の皆さんと一緒に考えたいと思いました。
 湘南電力の「地域応援メニュー」のような取り組みを、経済活動を民主主義の考え方で制御し、地域をみんなでよくしていく仕組みとしてさらに深めていくこともできそうです。

 余剰を地域のみんなのために分かち合い、みんなが物心ともに豊かになれる地域を……二宮尊徳の「推譲(すいじょう)」の精神は、「地域自給圏」の確立に挑戦する私たち風の谷あしがらプロジェクトが大事にしている考え方です。
 農業や環境、福祉の分野などは、地域の中での協力や協働といった考え方が比較的身近になっているように感じられますが、エネルギー分野についてもまったく同じことがいえると、今回の議論で改めて気づくことができました。

 そして、このあしがら地域を支えるエネルギーをどうしていくのか、この地域に暮らす多くのみなさんと一緒に学び、議論を深め、未来を描いていきたいと強く考えることになりました。

 秋に予定しているシンポジウムは、12月初めの見込みです。コロナの感染拡大状況も注視しつつ、みなさんと思いっきり議論できる機会にしたいと考えています。
 詳細のご案内まで、ぜひ楽しみにして、もう少しお待ちください!!

(文-風の谷あしがら事務局(渡辺))

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