おだわら版リアル寺小屋への思いと広がる夢!

この度初開催された「おだわら版リアル寺子屋」を始めた思いを、「風の谷あしがら」のメンバーである慶応義塾大学教授 井手英策先生に寄稿いただきました。

おだわら版リアル寺子屋を始めた井手先生

「シューカツ一択」への違和感

何のために学ぶのか。

これが、僕が「おだわら版リアル寺子屋(=ガチごや)」を始めようと思った最初の動機でした。

必死になっていい大学に入ろうと頑張る若者たち。理由はもちろんいい会社に入るため。ですから、3年生の夏になると、彼らの選択肢は「シューカツ一択」になります。

でも、これっておかしいですよね。選択肢がひとつしかない、ということは、選ぶ自由がないということ。つまり、「強制」されている、ということです。自由をうばわれ、強制されている、それなのに、学生たちはふつうに、当たり前のこととして、現実を受け入れている。

だから、思うのです。子どもや若者は何のために学ぶんでしょう。そんな現実をほったらかしにするとするならば、大人たちはいったい何のために学んできたのでしょう。

悩んでいた僕は思い切って、「はじめ塾」の塾長であり、「風の谷あしがら」のメンバーでもある和田正宏さんに相談をしました。

「子ども、若者、大人、みんなが〈生きかたを選ぶ力〉をそだてるための学校をやりたい」

そんな僕の申し出を和田さんは二つ返事で受け入れてくれました。和田さん自身、子どもたちが現実に触れ、そこから学ぶ機会を欲しておられたのです。

フェイスブックでも一緒に汗をかいてくれる仲間を探しました。何人もの仲間たちが手をあげてくれました。どんなに嬉しかったことか。みんな想いは同じだったんです。

こうして立ち上がったのが「ガチごや」でした。

窓が大きく開放感があって換気もいい本堂に、人がいっぱい集まりました。

墓場が遊び場に!

生きかたを教える先生。ぱっと聞くと、人選がかなりむつかしそうですよね。だって、〈ふつうの生きかた〉をしてこなかった人たちを探さないといけないんだから(笑)

でも、そんなことはありませんでした。だって、「風の谷」の仲間たちは、そんな連中ばっかりですからね(笑)最初のスタートは、和田さんと相談して、「風の谷」の発起人である加藤憲一さんにお願いすることにしました。

当日になりました。会場の大久寺さんには、予想を遥かに超える人たちが集まりました。80人くらいはいたんじゃないでしょうか。気持ちは高まり、蒸し暑さとあいまって、汗が噴き出してきます。

「だいたい4-50分話してくださいね。」

僕は憲一さんにそうお願いしました。でも、終わってみたら、80分くらい話されていました。何かが舞い降りたんでしょうか、憲一さんのなかに(笑)。
でもきっと、伝えたいこと、伝えなければならないこと、思いが溢れてきたのだと思います。すごい熱量でしたから。

もちろん、小さな子どもたちは、飽きます。でも、それでいいんです。僕たちは、最初に、「つまらなかったら外で遊んでいいんだからね」そう伝えていました。子どもから大人まで、みんなが夢中になれるお話なんて、そうそうできるもんじゃありませんし。

とはいえ、まわりにあるのはお墓だけ。子どもたちも、最初、戸惑っていました。

「お墓でどうやって遊んだらいいの?」

でも、ものの5分もしないうちに、鬼ごっこが始まっていました。おどろおどろしい?墓場は、最高の遊び場へと変わっていました。さすがです、子どもたちは。

手作りのみんなの学校

憲一さんが、文字通り、時間を忘れるほど夢中になった講話が終わりました。みんな腹ぺこです。「風の谷」の仲間である「志村屋米穀店」で買ったお米を「かまど」で炊き、いっしょに豚汁も作ることにしました。

はじめ塾の塾生たちは、火を起こす名人です。手際よく、作業が進められます。子どもと大人が一緒になって、お米を研ぎ、野菜を切ります。しきりは、将来板前を目指している高校生の加藤優善くん。応援に来てくれた彼が、子どもたちにテキパキと指示を出します。

もちろん、全員で料理を作る必要はありません。何人かの子どもたちは、引き続き、お墓のあたりで騒いでいます。それともうひとつ。「誠文堂新光社」さんがたくさんの本を寄付してくださっていました。その本をお堂でひらき、簡易図書館も作りました。小さな子どもたちが夢中になってむつかしそうな本を読んでいます。

やっと昼食です。炊き立てのご飯、できたての豚汁を頬張ります。質素で、ぜいたくなご飯。至福のひとときです。

そして、最後は、お片付け。散々にお寺を散らかした子どもたちが、しゃがみこんでゴミをひろい、石を整え、お寺さんを元の姿にもどしていきます。

こうして賑やかな1日が終わりました。

まじでみんなありがとう!

「そういえば、井手さん、お金はどうしたの?」

不思議に思われる方がいらっしゃるかもしれません。

会費はタダなんです。僕は昨年、「おだわら義塾」というオンライン講座をボランティアで開いていました。その「塾生」たちが寄付してくれたおかげで、「ガチごや」を無料解放することができたのです。絵に描いたような“win-win”の関係です。ありがとうございました!

それだけじゃありません。この「ガチごや」は、大久寺さんのみなさん、とりわけ、副住職の小林正行さんのご尽力なくしては、実現しませんでした。

大久寺副住職 小林正行さんと井手先生

小林さんは、同じ30区青年部の仲間であるのと同時に、慶応時代の僕の受講生でもありました。「当たり前にみんなで出入りできる、地域のプラットフォームを作りたい」・・・そんな、小林さんの熱い思いがなければ、絶対に実現しなかった企画でした。本当にありがとうございました!

30区の仲間たち、「風の谷」の仲間たち、そして慶応の学生たちも、駆けつけてくれました。みんなの情熱と思い、そしてけっして小さくないであろう〈違和感〉がひとつになって、第一回目の「ガチごや」は終了しました。最後に、ささやかではありましたが、感謝の気持ちをお寺さんにあらわそうと、みんなでお賽銭をして解散しました。

もちろん反省もあるけれど・・・夢は広がる!!

大成功、大満足の1日でしたが、もちろん、反省もあります。

まず、食事は素晴らしかったのですが、人数のこともあって、ぶっちゃけ、大バーベキュー大会になってしまいました。お寺にこられる檀家さんのことを思うと、もう少しこじんまりとやるべきでした。次回は午後の開催にして、魅力的なおやつを準備するほうがいいかもしれないね、なんて和田さんと話しています。

食事はなくとも、「コンテンツ」はもっと、もっと、充実させたいと思っています。鬼ごっこ、簡易図書館、これになにを加えられるのでしょうか。仲間たちとあれこれ知恵を出し合うつもりですが、みなさんからもぜひアイデアをお教えください!!

長期的には、座学だけではなくて、実学も盛り込みたいですね。「風の谷」の仲間たちは、みんな「現場」を持っています。「ガチごや」の発展型として、外に繰り出していくことも考えてみたいです(その現場のメンバーになってくれたら泣いちゃうかもな(笑))。

なにも決めずに走り出した「ガチごや」。ゴールをめざすのではなく、その走りっぱなしのプロセスを愉しみたいと思っています。そして、大きくなった子どもたち、若者たちが、「おだわら義塾」の塾生になってくれたらなぁ・・・そんなことをぼんやりと考えています。

慶応の先生から、みんなの先生へ。夢は果てしなく広がります(笑)

(文-井手英策)

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